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2023.08.25
渡邊 雄太|不退転の決意で臨む絶対的エース
渡邊 雄太 | Yuta WATANABE
SF/206㎝/97kg/1994年10月13日生まれ/フェニックス・サンズ/ジョージ・ワシントン大学出身/香川県出身
世界に挑む!男子日本代表候補インタビュー
渡邊 雄太|不退転の決意で臨む絶対的エース
バスケットボールの本場アメリカで感じた努力を積み重ねることの大切さ
「本当にみんなピリピリしていて、いい状態でやれていると思います。これが、本来の練習のあり方だと思います」
7月下旬、日本代表に合流したばかりの渡邊雄太が口にしたのが、この言葉だ。
「昔からずっと『日本は練習が緩いな』と感じていたのですが、今はその心配をする必要は一切なくて、むしろ僕がまだポジションニングを含めて全然仕上がっていないので、僕が頑張って合わせなければなりません」
そう言う渡邊は、練習のインテンシティ(強度)の高さが大切なことは身をもって感じてきた。「アメリカには、走るのが速い、高く跳べる、体が強いという選手はたくさんいますが、そういった選手でもNBAにたどり着けないケースがたくさんあります。何がいけないかというと、努力ができない。例えばケビン・デュラントは一流の選手ですが、練習のときからドリブル、パスなど中身の濃さが人と違い、チーム練習後も残って自主練習をしている。NBAで長年トップにいる彼がそれぐらいやっているのだから、『俺ももっとやらないといけないな』という気持ちにもなります」という言葉には説得力がある。
渡邊のこれまでのバスケットボール人生は、まさに努力の積み重ねだった。尽誠学園高校在学中(2年)に初の日本代表選手となりウイリアム・ジョーンズカップに出場するなど期待の星だったが、高校卒業後にバスケットボールの本場アメリカに渡ってからは苦労の連続。ジョージ・ワシントン大学では主力選手として活躍するも、アメリカ大学バスケットボール界最上のイベント、NCAAトーナメント出場することは一度もなかった。
大学卒業後は、NBA入りを目指しサマーリーグでプレー。メンフィス・グリズリーズの目にとまり契約するが、下部のGリーグとの行き来をするツーウェイ契約。NBAよりもGリーグでプレーするほうが多かった。その後、2020-21シーズンはトロント・ラプターズと契約したものの、エグジビット10(無保証で1年限定のチームオプションのミニマム契約)という条件で「6人ぐらいに部分保証を与えて、残り2、3枠を争うというやり方だったので、あってないような保証でした」と渡邊。
翌2022-23シーズンはブルックリン・ネッツと契約。だが、スタート時は無保証という厳しい評価しかしてもらえず、「不安になることも当然ありました」と言う。それでも「そういうときは『自分はあれだけ練習したのだから、これだけ今までやってきたんだから、絶対活躍できる』と、(不安な気持ちから)切り替えるようにしていました。今までの本当に小さな努力の積み重ねが、ちょっとずつ自分を助けてくれるのかなと思います」と、58試合に出場し、平均出場時間16分、平均5.6得点、フィールドゴール成功率49.1%、3Pシュート成功率44.4%というスタッツを残してみせる。
NBAの昨シーズン、一時期成功率でトップに立った3Pシュートに期待
それが評価され、今季は10チーム以上からオファーがあったというが、フェニックス・サンズと2シーズンの契約を結ぶことに。初めての保証付き契約に「自分が間違いなくチームにいられるという契約になりました。カットされる可能性もゼロではないですが、開幕ロスターには入るので、今まで自分がやってきた努力、方向性は間違いではなかったと改めて感じました」と渡邊。特に「ブルックリンでの時間は自分にとって、キャリアを左右した1年だったと思っています。元々無保証の契約しかもらえず行くか行かないかで迷っていたところから始まって、すべてがうまく回りだして活躍して、コーチたちやチームメイトからの信頼を得て評価が上がりました」と振り返る。
そんな渡邊だからこそ、人がどれだけの努力をしているかに敏感で、冒頭のように今の日本代表に頼もしさを感じたのだろう。
「連敗するようなことがあれば代表のユニフォームを脱ぐつもり」
「僕は16歳のときに初めて日本代表候補に入り、それから12~13年ほど日の丸を背負ってプレーさせてもらっています。日の丸を背負っている以上、軽いことはできないなという思いがあります」と言う渡邊は、「今回もまた連敗するようなことがあれば、自分は代表のユニフォームも脱ぐつもりでいます。勝てない選手がずっと上に居続けてもしようがない。それぐらい、今回の代表にはすごく賭けている部分があります」と、来るFIBAバスケットボールワールドカップ2023に向けて強い決意を見せている。その裏には、FIBAバスケットボールワールドカップ2019、そして東京2020オリンピックで一つも勝ち星を挙げられなかった悔しさがあるのは間違いない。
だからこそ、「自分はまず、このチームではリーダーとして引っ張っていかなければいけないと思っています。若い選手がたくさんいる中で、自分は経験が多い選手ですし、 チームを引っ張るべき存在だと思っているので、メンタル的な部分でも支えられるようにしていきたいです。プレーでは色々なことが求められると思うので、NBAとは違った役割にはなると思います。自分の良さをしっかり出しつつ、成長した姿を見せられたらいいですね」と自らに厳しいノルマを課している。
トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)から求められているのは、シュート力の高さを生かしたストレッチフォー(ディフェンスをアウトサイドに引き寄せる3Pシュートを放てるパワーフォワード)としての役割だ。渡邊自身は「1対1で自分が仕掛けたりとか、そういうことは自分が得意としているものではないので、そこで無理して攻めたりはしません。とにかく、今チームがやっているプレーに合わせながら、最終的にいい形で僕にボールが回ってきて、それをしっかり決め切るのが今の自分の役割。そこはしっかりやっていきたいと思っています」とチームプレーに徹する意識で、チームが採用するファイブアウトの戦術については「チームとして5人が動いて、しっかりとボールを回して、いい形でシュートを打つことを意識しているので、それは僕もやりやすいです」とのこと。
チームとして狙うは来年開催されるパリオリンピックの出場権を付与されるアジア1位の順位。それに近づくためにはドイツ、フィンランド、オーストラリアとのグループフェーズで2勝することが求められるが、「(大切なのは)目の前の一戦一戦に集中すること。その結果として盛り上がりだったりがついてくると思っています。(大会までに)ちゃんと毎日の練習を大事にしていきたいと思っています」という地に足が着いた応えには渡邊らしさが出ている。と同時に、「日本開催でやれるというのは、生涯一度の経験だと思っています。オリンピックも東京で開催されましたが、残念ながら無観客という状況でした。今回はたくさんのお客さんにも見てもらえると思います。チームの中心として支えなければとも思っています」と熱く燃える心も秘めている。
日本の絶対的エースとして、自身2度目のFIBAワールドカップに臨む