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2023.08.25
ジョシュ・ホーキンソン|日本を愛し、日本のために全力で挑むバスケ一家の申し子
ジョシュ・ホーキンソン | Josh HAWKINSON
C・PF/208㎝/106㎏/1995年6月23日/サンロッカーズ渋谷/ワシントン州立大学出身/アメリカ出身
世界に挑む!男子日本代表候補インタビュー
ジョシュ・ホーキンソン|日本を愛し、日本のために全力で挑むバスケ一家の申し子
“スタッツ以上”の貢献を見せる万能ビッグマン
アメリカ・シアトルで生まれ育ったスポーツ万能の少年は、バスケットボールより野球が得意だった。幼き日々の憧れは、2001年に地元のMLB球団マリナーズへ加入したイチロー。高校時代のホーキンソンは投手として150㎞近い速球を投げる野球の“プロスペクト”(若手の有望株)だった。ただ彼はバスケ一家の生まれでもある。父ネルズはノルウェー、母ナンシーはデンマークでプレーした元プロ選手。さらに父は「Basketball Travelers Inc」というスポーツ観光代理店の経営で成功しているビジネスマンでもある。
ホーキンソンはワシントン州立大学で自らも愛するバスケに専念。パシフィック12カンファレンス(PAC-12)ではFIBAバスケットボールワールドカップ2023のグループEで対戦するラウリー・マルカネン(ジャズ/フィンランド代表)、マティス・サイブル(トレイルブレイザーズ/オーストラリア代表)と競い合っていた。
若き日の彼が目標としたプレーヤーはケビン・ラブ(ヒート)とダーク・ノビツキー(マーベリックス・スペシャルアドバイザー)。どちらもサイズに恵まれつつ、外からシュートを打て、ディフェンスも得意なタイプだ。そしてホーキンソンも同じようなオールラウンダーに成長していく。大学では「通算1000得点、1000リバウンド」を達成し、ドラフト前には各チームの練習に参加して好感触を受けていたという。しかし2017年6月のNBAドラフトでは指名漏れ。ビッグマン離れしたスキルはあっても、NBAレベルではアスリート性が足りないという評価だった。
ホーキンソンは2017年夏、当時B2だったファイティングイーグルス名古屋でB.LEAGUEのキャリアをスタートさせる。「日本では大きくて技術のあるタイプが好まれる」というエージェントのアドバイスが決断を後押しした。来日直後はホームシックにも悩んだというが、同じく海外でのプロ経験を持つ両親のアドバイスを受けて逆境を克服。そして来日2シーズン目から圧倒的なパフォーマンスを示し始める。2018-19シーズンのB2ではレギュラーシーズン全55試合に出場し、1試合の平均出場時間が何と36.4分。1試合平均20.9得点、10.3リバウンドを記録し、3Pシュートの成功率も5%以上伸ばした。来日4シーズン目(2020-21)からはB1信州ブレイブウォリアーズに移籍。プレータイムは20分台から30分台へと伸ばしていき、B1屈指のビッグマンとして評価を徐々に確立していった。
昨シーズンまで信州に在籍。シュートやリバウンドだけでなく、アシストでも勝利に貢献した
ホーキンソンはゴール下で体を張り、リバウンドに絡むビッグマンらしさを持ちつつ、速攻についていく脚力も持っている。さらに攻防の戦術遂行力やプレーのバリエーションは来日後の6シーズンで伸ばした部分だ。例えば味方にスクリーンをかけた後、彼はゴール下に飛び込むだけでなく、外に開いて3Pシュートを決めることができる。パスの中継点としてシューターを生かす状況判断もある。チームメイトを生かし、仲間の選択肢を増やせるタイプで、B.LEAGUEでは“スタッツ以上”の貢献をしてきた。
2023年2月に日本国籍を取得。「日本をもっと良いチームにしたい」
早くから日本語習得、文化への適応に積極的だったホーキンソンは、2023年2月に日本国籍を取得。日本語力なども問われる厳しい審査を、ほぼ“最短期間”で突破した。彼はテレビ朝日“GET SPORTS”のインタビューでこう述べている。「僕をここまで成長させてくれた人たちに恩返しをしたかった。ここまで成長できた自分を、彼らにも誇らしく思ってほしい」。別の取材ではこう抱負を語っている。「帰化選手として、この日本代表の枠を争うことができるのは本当に光栄なこと。もちろんその枠を自分が勝ち取りたいけれど、それ以上に『日本をもっともっと良いチームにしたい』という気持ちです」
家族の反応もポジティブなものだった。国籍取得直後の記者会見ではこう説明していた。「両親も日本が大好きですし、私が日本を愛していることを理解してくれていたと思います。年末年始には両親が長野に来て、試合を観戦して、いろいろな知人を紹介できた。国籍を取得する前に自分がどんな環境で過ごしているか、周りの人々から愛されているかを知ってもらうことができたのは良かった」
日本国籍取得からわずか2週間、2023年2月末のFIBAバスケットボールワールドカップアジア地区予選に招集されるとイラン戦、バーレーン戦の連勝に貢献した。トム・ホーバスヘッドコーチ(HC)は、パス能力が高く、1on1やフィニッシュなどのスキルも兼備した彼を“日本のヨキッチ”と称賛し、合流を喜んでいた。B.LEAGUEの各クラブにとって喉から手が出るほど欲しい“帰化選手”となったホーキンソンは、2023-24シーズンからサンロッカーズ渋谷に移籍する。ただFE名古屋、信州時代のファンからも今なお愛される存在だ。それは実力に加え地域へ積極的に飛び出し、ファンとも分け隔てなく絡む人間性によるものだろう。
7月、8月上旬の日本代表の強化試合は股関節の負傷でプレーできず、有明アリーナで行われた15日のアンゴラ戦、17日のフランス戦、19日のスロベニア戦もプレータイムを抑えていた。スロベニア戦後の会見で、ホーバスHCはこう述べている。「まだ(ケガを)治している途中で、ゲームコンディションが100%ではないです。ジョシュはストレッチ・フォーのタイプで、外からのオープンショットが入ったら川真田(紘也)といいコンビができる。元気だったら大丈夫かなと思います。ジョシュは今日リバウンドをよく取って、シュートはまだ見せてないけど(ゲームコンディションが戻れば)入ります。それに渡邊雄太が入ると(ジョシュがC/渡邊がPFのコンビで)また違います」
スロベニア戦は渡邊が負傷で欠場し、ホーキンソン以外もシュートを決めきれず、日本は68-103のスコアで敗れた。ただ第4クォーター残り4分前後、並の選手なら心身ともに疲弊している時間帯に、頼もしきビッグマンは有明アリーナの大観衆を沸かせる見せ場を作る。相手のシュートに対して2連続のブロックショットを決めると、そのまま速攻に参加。相手のファウルを受けながら豪快な2Pショットを叩き込んだ。沖縄に向ける“エナジー”が伝わるプレーだった。ホーキンソンはこう振り返っていた。「スロベニアの選手がこんなことを私に言ってきました。『もう25点差なのに、この試合は本大会じゃないのに、君はなぜそんな“ガチ”でプレーしているのだ?』と。でもそういう姿勢がファンやチームに乗り移って、ワールドカップにもつながると思ったんです」
そして、25日のドイツ戦に向けた抱負も、力強く語っていた。「間違いなくドイツはいいチームです。ルカ・ドンチッチ(マーベリックス/スロベニア代表)と同じように素晴らしいデニス・シュルーダー(ラプターズ)というPGがいて、それを支える脇役がいて、ダイナミックにピック&ロールからゴールの下へ飛び込んでくるビッグマンもいる。私たちは今日から徹底的に対策をして、ファイナル(決勝戦)のつもりで戦います」
「It’s the final」のフレーズを、自分に言い聞かせるように繰り返して、彼は取材を終えた。日本がドイツ戦で世界を驚かせるために、そして、沖縄で“アジア1位”“パリオリンピック出場権獲得”という目標を果たすために、この男の存在は不可欠だ。
パリオリンピックの出場権獲得のためにもホーキンソンの活躍は不可欠だ