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2023.08.26
渡邊雄太:NBA選手の自覚と風格
FIBAバスケットボールワールドカップ2023初日、8月25日に行われた日本対ドイツは、両チームのNBA選手たちが活躍し、改めて、NBA選手のレベルの高さを見せつけた試合だった。
ドイツは司令塔でキャプテン、そしてエースでもあるデニス・シュルーダーはもちろん、モリッツとフランツのバグナー兄弟やダニエル・タイスの現役NBA組4人が揃って活躍した。全員が二桁得点をあげ、4人で合計62点と、チーム全体の76%の得点を叩き出した。特に、日本のディフェンスがシュルーダーのペイント内への攻撃を抑えることに重点を置くと、4人の中では伏兵的な存在だったモリッツが前半に3Pシュートを2本とも決めたほか、試合を通してドライブインなどで積極的に攻め、試合を通してチーム最多の25得点をあげている。
日本にとって一番抑えたかったのは、シュルーダーにペイントに入られてかき回されることだった。そこを抑えることで手薄になったバグナーにやられてしまった。試合後に渡邊雄太も、チームの作戦として、シュルーダーを抑えるためにはモリッツ・バグナーにはある程度、外から打たれてもしかたないという方針だったと語り、結果的にはそれを決め切った彼がすごかったと認めた。
「あそこ(モリッツ・バグナー)にはある程度やられていい、3ポイントもある程度打たしていいっていうゲームプランだった。前半に(3ポイントを)3/3ぐらい(実際は2/2)で決められたのは、もう本当に彼を称賛しなきゃいけないというか。こういうゲームで決めきってくるのがやっぱり強い選手。さすがなっていうところだった」
そう語る渡邊も、さすがNBA選手という存在感を見せた。大会前の強化試合、アンゴラ戦で右足首を捻挫してから10日後のこの日、体力面ではまだ完全とは言えない中で、そのことを言い訳にすることなく、全力で戦った。そして、20点、6リバウンド、2アシスト、2ブロックと攻守での大車輪の活躍で、チームを牽引した。チームメイトを鼓舞し、ファンを盛り上げ、最後まで諦めない姿勢を見せた。
「コートに立つ以上は、別に足が痛かろうが関係ない。もしかしたらドイツにも負傷者がいるかもしれないですし、そこはみんな言い訳せずにやっているんで、僕もそこは言い訳せずにやっていきたいと思ってます」
日本代表のトム・ホーバスヘッドコーチも、そんな渡邊を絶賛した。
「彼はすばらしかった。コンディションが完全ではないなかで30分プレーし、リバウンドやディフェンス、ブロックを見せた。落ち着いてあれだけのプレーをしていて、彼は、まさにNBA選手だった」
それでも、渡邊は試合後のミックスゾーンで、開口一番に自身の反省点を口にした。試合開始から1分の間に打った2本の3ポイントシュートを、どちらも決められなかったことに対する反省だった。
「前半に自分のシュートが入っていたら、もっとゲーム展開が変わってたと思う。本当にチームに迷惑かけてしまった」
「向こうの4番の選手(マオド・ロ)が僕についていて、そこでピック&ポップとか、僕がちょっと動いたときに必ずズレができてたんで、そこはあいたら思い切って打つっていうだけ。トーンセットする(試合の流れを作り出す)というのもありますけど、ただ、もう単純に目の前があいてたから打ったっていうだけ。ただ、それはやっぱ決めきれなかったので自分の責任というか。あそこを決めていればもっとゲーム展開が変わってたと思う。次は決めるようにします」
傍から見ると、自分に対して厳しすぎる発言に思えるかもしれない。しかし、それがNBA選手のスタンダードの高さだ。強豪ドイツが相手でも勝つための本気の戦いを挑み、20点あげたことに満足することなく、自分がシュートを決めていれば流れが変わっていたと反省する。それだけ高いところを見ている選手がいるからこそ、チームも、本気で勝てると信じることができる。
チームメイトの比江島慎は、そんな渡邊のリーダーシップがあったから、まわりの選手たちも最後まで諦めずに戦うことができたと語った。
「やっぱり彼が率先してディフェンス、リバウンド、そして走って得点を取って。声もしっかり出してリーダーシップをとっていた。ああいうトップの選手がやると、どの選手もそれを最低限やらなきゃいけないというところもあると思うので、彼は素晴らしいと思います」
前半が終わった時点で22点のリードを取られた日本だが、ハーフタイムには「後半に勝つ」という新たな目標設定をした。大会に出場しているアジア6カ国の中で最高成績をあげ、パリ五輪の出場権を取るという目標のためには、最後に得失点差が重要になってくる可能性が高い。どれだけ点差がついても諦めるわけにはいかなかった。
渡邊も、後半のチームの頑張りは、次の試合への収穫だったと語った。
「後半にまたちょっと点差離されそうなときに、みんな食いしばって、40分戦い切った。(アジアの他国と)勝敗が並んだときに得失点差が関係してくる分、1点が本当に重くなってくる。今日、本当に最後までみんな諦めずにやりきったっていうのは、ひとつ収穫かなというふうに思います」
勝負の世界では、思うようにいかないことはよくあることだ。初戦が大事だとドイツ戦に向けて入念な準備をしながら、チームとしてのリズムが作れず、武器となるべき3ポイントシュートが決まらずに前半で大差をつけられた。それでも、後半に修正し、最後まで戦い抜いたことで、次の試合につなげることができる。
「ドイツの、ヨーロッパの強さっていうのをみんな実感できたと思う。(次戦の)フィンランドも同じように強いですし、ただ、もう落ち込んでいる暇もないので、しっかり休んで、次の試合に向けて早く切り替えて、次の試合で絶対に勝てるように頑張ります」
文 = 宮地陽子