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2023.09.03

日本代表をパリ2024オリンピックに導いた、小さくて、大きなキャプテン、富樫勇樹

FIBAバスケットボールワールドカップ2023の日本代表の戦いのなかで、印象的だった場面がある。試合中ではなく、試合後のロッカールームを映した映像で見た場面だ。

1次ラウンドのフィンランド戦で、歴史的な勝利を収めた日本代表。主力選手たちがミックスゾーンで取材を受けている間に、控えで出番が少なかった選手たちが先にロッカールームに戻り、勝利を喜び合っていた。その中で、「(自分たちは)全然メインじゃないし」と、少し自虐的な声があがると、別の選手が「いいよ。メインじゃないところで、どれだけ頑張れるかだ」と、自分たちに言い聞かせるように声をあげたのだ。

今回の日本代表を象徴する場面だと思った。

このチームは、試合ごとにヒーローが変わり、出番が少ない選手でも自分が与えられた時間の中で全力を尽くしてチームに貢献し、そのことに誇りを持っていた。また渡邊雄太ら主力選手たちも、常に「12人全員で戦っている」ということを強調してきた。NBAで強いチームに必要だと言われる「それぞれの選手が、自分の役割の中でスターになる」ということを体現しているチームだった。

9月2日の17-32位決定最終戦、勝てばパリ2024オリンピック出場権を勝ち取れるカーボベルデ共和国戦も、また違うヒーローが誕生した。3ポイントシューターとして、チームのオフェンスの軸を担う富永啓生が、ようやくそのシュート力を発揮して試合を通して8本中6本の3ポイントシュートを決め、22得点をあげたのだ。彼が出ている時間帯の得失点差は+20。インサイドのサイズがあるカーボベルデ相手に外からシュートを決めることで日本の攻撃リズムを作り出し、80対71での日本の勝利に大きく貢献した。

実は富永は直前の2試合で得意とする3ポイントシュートを決められず、特にオーストラリア戦では放った3ポイントシュート10本すべてを外し、「チームに迷惑をかけてしまった」と反省していた。そんなときに、リーダーの渡邊雄太から、富永が憧れるNBAゴールデンステイト・ウォリアーズの名シューター、ステフィン・カリーが10本の3ポイントシュートをすべて外した次の試合で、当時のNBA最多記録だった13本の3ポイントシュートを成功させたことがあったという話を聞かされ、「だから次は入るよ。頑張れ」と声をかけられた。

そういった表に出る部分、出ない部分、コート上で見える部分、見えない部分、スタッツに残る部分、残らない部分、すべての意味で、チームとして戦い抜いたワールドカップだった。

キャプテンの富樫勇樹は言う。
「この大会通して本当にチームとして戦えたなと思います。ジョシュ(ホーキンソン)と(渡邊)雄太はほぼフル出場で、この数試合、もう、かなりの疲労度の中やっていたと思いますけど、他の選手は20分から、出て25分ぐらい。タイム(出場時間)をある程度シェアしながらのプレーだったので、その日その日で点数取った選手も変わったり、本当にチームで助け合いながら、お互いのよさを引き出そうと心がけながらできた大会だったかなと思います」

その姿勢を自ら見せていたのが、富樫自身だった。代表経験がある30歳のベテラン、そしてキャプテンでありながら、同じポジションで今大会で急成長を見せた22歳の若い河村勇輝を盛り立て、勝負どころで河村が起用されることに不満の色を微塵も見せなかった。ベンチにいるときでも率先して声をあげ、若手選手たちを「声を出していこう!」と鼓舞していた。最終戦のカーボベルデ戦を含め、12分以下の出場時間だった試合が5試合中3試合。5試合の平均4点、3.4アシストと、残した数字的には物足りない大会だったが、勝った試合ではいつも笑顔で、負けた試合でも、チームメイトたちが肩を落とさず次の試合に向かえるように前向きな声をかけていた。

実は富樫は、若い河村が活躍するのをベンチから見て、一ファンのような気分になっていたと言う。
「これはいいのかどうかわからないですけど、もしかしてよくないのかもしれないですけれど、なんか1人のNBA選手を見てるような感覚で『うわー、すごいな』って(河村を)ベンチから見ていた。去年、(Bリーグの)シーズンで何回もその感覚はありましたけれど、世界の舞台で、彼が今まで努力してきたもの(を出し切り)、完全に力を発揮してくれて。チームとしても彼や、富永選手もそうですけれど、本当に若い力にも助けられながら掴んだ勝利だと思う」

強がっているのか、あるいはキャプテンの責任感なのか、前向きにそう語る富樫。親友の渡邊は、彼が心の奥に閉じ込めている気持ちを代弁するかのように言った。
「今回、多分、彼自身は悔しかったというか、もっともっと試合に出たかったと思いますし、もっと出ていたら活躍もできたと思うんですけど、そういう気持ちを押し殺して、ベンチでキャプテンに徹していた。試合が終わったらいつも声もガラガラでしたし。元々、そういうタイプでもないと思うんですけど、自分がキャプテンに任命された以上、やらなきゃいけないっていうことでやってくれたと思う。このチームは、1人1人が求められてる役割を理解してやれていたんで、本当に理想のチーム。誰1人、エゴみたいなのを見せることなく、自分の役割に本当に徹してくれた。今回、試合に出れなくて悔しい思いをしているメンバーたちもいると思うんですけど、毎試合、(夜の)10時、11時とかに試合が終わってからも練習しに行って、もう汗だくになっていつもロッカールームへ帰ってきて、いつでも試合に出れる準備をしていましたし。これが、本当に強いチームのあり方だと思うんで。本当にみんなが誇らしいです。もう本当、このチームでよかったなっていうふうに思います」

NBAでは、試合後に練習で汗をかく立場であることが多い渡邊だけに、そうやって陰でチームを支える選手たちの頑張りにも目が届く。

富樫は、自身の大会中のメンタリティについて、こんなことも言っていた。
「いいのか悪いのかわかんないですけど、本当に、めちゃくちゃポジティブで。最初の2戦は両方0点でしたけど、言えばこの大会で一番小さい(身長167cm)僕が0点だからといって悩んでる暇もないなっていう感覚でずっとやっています。もちろんコートに出たときはできるだけもう自分の役目を果たさなきゃいけない。それは常に思ってますけど、試合が終わったときに下向いてる暇は僕にはないので。そこはもう常に切り替えて。この身長でやっていく以上、常にチャレンジャーでしかないので。実際、周りの声はいろいろあると思いますけど、僕はこのチームと、トムさん(トム・ホーバスHC)としっかりコミュニケーションも取れてますし、信用してくれる仲間もチームメイトもいるので、その期待に応えられるよう頑張るだけだなと」

そうやって、12人の選手全員が自分の役割に徹し、必要とされればいつでもやってやるという気持ちで戦った10日間、5試合のワールドカップ。日本は3勝2敗と、史上初めて勝ち越しの成績で目標としていたアジア1位の成績をあげ、48年ぶりに自力でパリ2024オリンピックの出場権を勝ち取った。

富樫は言う。
「正直、本当にこの身長で、こんな長く代表活動させてもらえると正直思ってもいなくて。僕は子供のときにオリンピック出ている日本代表のチームをほとんど見ずに、代表を目指すとか、そういったことを何も考えずにプロとして普通にやっていた時期もあったので。そこからこうやって代表に選んでもらって、この大きな大会、キャプテンとして任され、チームの目標であるパリオリンピックを決めたっていうのは、すごく嬉しく思います」

ワールドカップは終わったが、その瞬間から富樫の目はパリ2024オリンピックへと向けられていた。
「もちろん、来年にあるオリンピックは個人的にもやっぱり出たいですし。でもそれにはもう1回いろいろと見直しというか、努力しないといけない部分がたくさんあるかなと思うんで、また本当に、正直1から(ロスター争いの戦いが)始まるのかなっていう感覚はあります」

パリ2024オリンピックまで11カ月弱。チームとしてその舞台に立つ権利を勝ち取った今、個々の選手のパリに向けたチャレンジがスタートする。

文 = 宮地陽子

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